ANAの社員出向から考える雇用流動化

社員出向などの報道から、雇用流動化について話をさせていただきます。

ANAホールディングス(以下ANAHD)は2021年3月期決算の最終利益が5100億円の赤字になる見通しであると公表しました。コロナ禍の航空業界への影響は世界的に大きく、日本航空(JAL)も2700億円の赤字見通しです。 経営悪化を受け、ANAHDは構造改革の一環として外部企業への社員出向を明らかにしました。複数の企業と調整を進めており、12月までに100人、来春までに400人以上に拡大させる方針です。 将来の需要回復を見据えてスキルを持った社員の雇用を維持するために、出向期間を過ぎれば出向元の企業に戻ることを保証した半年から2年程度の在籍出向です。ANAHD側が社員に給料を支払うことに変わりはありませんが、出向先企業から対価を受け取れる間接支給によって一時的に人件費を圧縮します。

労働資源の効率的活用には、経済環境 に応じて必要な場所に労働移動が行われることと、投入される企業や職場で最も効率的な働き方がされることが必要だと言われますが、今回の出向という判断は「必要な場所への労働移動」という観点でよい判断だと思います。

では、「投入される企業や職場で最も効率的な働き方」という観点でみたときには、どうでしょうか。

出向先企業の社員とっては、これまでの社内での相対評価の環境から、ある程度、ANAHDからの出向社員との絶対評価にさらされる環境に変化するだろうと思います。この環境のなかで、出向先企業の社員とANAHDからの出向社員は、お互いに自分の市場価値を確認することになり、自分のキャリアプランを見つめ直すよい機会になるはずです。 また出向先企業にとっては、人的資本への投資について効率的な採用・教育・配置をしているのかを確認するよい機会になるはずです。 総務省の調査は、ICT(情報通信技術)投資でICT化の効果を得るためには、ICT化に伴う組織改革や人的資本への取組・改革を実施することの重要性を示唆してます。ANAHDの出向は、社内における社員の流動性の促進を考える際に、非定型で人間優位の業務は何かという点でよい気づきを与えるのではないでしょうか。

以上から、 「投入される企業や職場で最も効率的な働き方」という観点からみても、今回の出向という判断はよい判断だと思います。

いつの時代も、自分が活躍できる場を見つけることは容易ではありません。新型コロナウィルスのパンデミックの影響により経済環境が激変して厳しい労働市場になっていますが、長期雇用、働き方の多様化、雇用流動化と労働生産性の関係について、なにがしかのヒントが得られれば不幸中の幸いになるのではないかと感じます。

整理解雇による離職では、そうでない場合の離職に比べて報酬が長期的に下がることは、雇用が流動的といわれるアメリカやフレキシキュリティ(*)を進めてきたデンマークでも報告されています。日本では解雇に注目したマクロデータによる研究結果が待たれると前置きしたうえで、「賃金構造基本統計調査」の結果から類推すると、大まかな見通し程度に過ぎないがアメリカやデンマークと似た傾向があるのではないかと考える研究者もいます。(出所:日本労働研究雑誌「雇用流動化で考慮されるべき論点」江口匡太」)

ICT化と成長領域への労働力の移動と長期雇用がバランスよく成立する仕組みが見つけらないだろうかと切に思います。例えば、業界をまたいだ企業集合体の枠組みを作り、枠組みの中で出向をベースにした企業間の労働力シェアリングという考え方を適用することで、様々な変化に応じて雇用のバランスを維持しながら、メンバーシップ型と言われる日本型雇用とJob型雇用の中間の雇用形態を目指すことに挑戦する、というのもありではないかと思います。

(*)フレキシキュリティ:解雇を強く規制せず、労働のフレキシブルな移動を可能とすると同時に、手厚い失業保険によって労働者(失業者)の生活を保障しようとするもの

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