自動車業界の変化と求められるキャリアパス

自動車業界の変化とその変化に伴って求められるキャリアパスについて話をさせていただきます。

世界全体の自動車の販売台数は2017年まで右肩上がりでしたが、2018年に頭打ちとなり、2019年は前年より4.0%減少して9,130万台となりました(出所:日本自動車工業会)。 新型コロナウイルスのパンデミックにより、2020年に大きく落ち込んだ販売台数が元の水準に戻るのに5~6年かかり、2026年には2019年実績を上回るという予測もありますが、先進国の生産年齢人口の減少や高齢化、カーシェアリングの進展などを考えると、頭打ちの状況が変わることはないでしょう。

自動車各社は、ソフト面から需要を喚起するために自動運転システムの搭載などを進めています。ホンダはレベル3の実用化(※1)にこぎ着け、レジェンドに搭載して2020年度内に世界初の市販を行うと発表しました。あらゆる場所でシステムがすべて運転するレベル5が実用化されれば、安全性やドライバー負荷の軽減に大きく貢献すると考えますが、台数の増加には結びつかないでしょう。
(※1)自動運転のレベル3:高速道路など特定の条件化で、システムが全て運転する。緊急時などは人が操作を代わる。

自動車は、移動の自由という顧客価値もたらしてくれる一方、温室効果ガスの発生源のひとつでもあります。 欧州連合(EU)をはじめ世界122の国と地域が温室効果ガスの排出量を2050年までに実質ゼロ(※2)にする目標を掲げています。最近日本が同様の方針を発表し、中国も2060年までに達成する方針を明らかにしました。
(※2)温室効果ガスの排出量実質ゼロ:CO2などの温室効果ガスの人為的な発生源による排出量と、森林等の吸収源による除去量との間の均衡を達成すること。

総合エネルギー統計2017によると、日本のCO2排出量11.29億トンの内訳は、発電部門の占める割合が49%、加熱や暖房・給湯といった熱利用などからの排出割合が32%(産業部門で21%、民生部門で9%、自家消費で2%)、自動車・船・飛行機など輸送用燃料から排出されているCO2 の割合が19%となっています。 輸送機関をゼロ炭素化するためには、輸送機関の動力源を化石燃料から電力と水素に変えなければなりません。(出所:「産業技術環境政策について」へのコメント 内山洋司)

自動車については、すでに複数の国や地域で、ガソリン車とディーゼル車の販売規制を実施することがわかっています。フランスは2040年までにガソリン車とディーゼル車の新車販売を禁止します。英国は、フランスと同様の方針でしたが、11月には2030年までの前倒しに加え、2035年までにハイブリッド車(HV)の新車販売を禁止すると発表するなど積極姿勢を打ち出しています。中国は2035年に新車販売の50%以上を新エネルギー車(※3)にし、残りはすべてHVにすると発表しています。
(※3)新エネルギー車:中国政府が普及を目指す環境対応車の総称。電気自動車(EV)、プラグインハイブリッド車(PHV)、燃料電池車(FCV)が対象。HVは含まれない。

販売規制の動向を受け、自動車業界では、ガソリン車やディーゼル車、HV中心からEVやPHV、FCV中心へと方向転換する舵取りを迫られています。 トヨタ自動車は、FCVの生産能力を現在の10倍となる年3万台規模に強化するとともに、水素をフル充填した際の走行距離を、初代の1.3倍となる850キロに伸ばした2代目ミライを12月に販売するなど、本格的な量産体制を整えてFCVの普及を図る考えです。

自動車業界は、既存事業を電化、水素化する方向転換のために投資が必要となっていますが、その一方で、既存事業が成熟期にあるうちに新たな事業に投資して事業転換を図り、企業成長を持続させることも求められています。

トヨタ自動車が「モビリティ・カンパニー」を目指して、移動サービス事業に事業転換しようとしているのはその表れです。移動サービス事業の一例として、空飛ぶクルマ事業への投資やスマートシティー事業への投資があげられます。 米国新興企業やソフトバンク、NTTなどと積極的に業務提携や資本提携を結んで、自社だけでクローズしないオープンな開発を進め、活動を加速させています。 GoogleやUber Technologiesなどが先行して作っている市場を獲りに行くサービス分野の戦いになることを考え、技術系の大学生・院生の新卒採用の学校推薦を全廃して、新たな事業分野の技術や知識を持つ学生を広く自由応募させることで人的資本の充実を図るようです。

空飛ぶクルマは、2040年には市場規模が1.5兆ドル(米モルガン・スタンレーの推計)の有力産業になると予測されていますが、その開発に取り組む企業や団体は200に上るとされ、開発競争が世界で激化しています。2019年から取り組み団体による試験飛行が始まっており、2020年代半ばの実用化も見えてきています。どこがトップ集団に残るか興味深いところです。 トヨタ自動車は、米新興のジョビー・アビエーションに約400億円を出資し、役員も送り込んでいます。

スマートシティーについて、トヨタ自動は、約360人が居住する「ウーブン・シティー」を静岡県裾野市に創ることを発表しています。自動運転やMaaS(モビリティ・アズ・ア・サービス)(※4)、ロボット、AI(人工知能)技術などを実証実験する都市として2021年2月に着工予定です。1辺が150メートルの正方形を1区画として、地上には自動運転車、歩行者と小型の乗り物が行きかう3本の専用道路を、地下には物を運ぶ自動運転車用の道路を設ける計画です。
(※4)MaaS:ICT を活用して交通をクラウド化し、公共交通か否か、またその運営主体にかかわらず、マイカー以外のすべての交通手段によるモビリティ(移動)を 1 つのサービスとしてとらえ、シームレスにつなぐ新たな「移動」の概念です。

トヨタ自動車に限らず、自動車業界という見方をすると、台数を上げたりガソリン車の燃費を上げることを何十年かやってきましたが、そろそろ頭打ちとなり、代わりに安全性、ドライバー負荷、CO2排出量やモビリティ(台数よりもキロ数)のような新しいKPIで車を開発することになっていきます。エンジニアに求められるスキルは短い期間で変わっていくことから、エンジニアは時代の変化に追従できるようなキャリアパスを考えないといけません。

一方で、トヨタ自動車の強みは生産リードタイムをKPIにして生産技術を磨いてきていることです。ジャストインタイムで部品、在庫数を減らせる仕組みは全製造業に通用するスキルです。これを突き詰めていくことは時代に関わらずニーズがあり、この分野のプロフェッショナルになるキャリアパスは今後も十分あり得ます。

大事なことは、何が自分のキャリアにとっての強みになるか、ならないのかよく考えて、自分の市場価値を高めることに投資をすることです。

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