労働力の需要と供給

最近の労働市場における労働力の需要と供給について話をさせていただきます。

企業の早期・希望退職募集は2019年から増加しています。
2019年は、売上高が伸びない中でも人件費を減らすことで、利益を確保しようとする、経営戦略に基づいた「黒字リストラ」が目立っていました。東京商工リサーチによると、実施した企業は36社、募集人数は1万人以上におよびました。 2020年は、新型コロナウイルスの影響で業績が悪化した企業での募集が増加しています。
ほとんどの企業が、退職金を積み増したり次の就職先を支援したりして、あくまで「自主的な退職」という形をとり、日本型経営の「終身雇用」から脱却し、転職など「多様な働き方」を実現するという建前です。 しかし、電気・情報ユニオンの書記長は「実際には指名解雇のようなやり方も少なくない」と指摘しています。 多くの企業が対象とするのは、「45歳以上」などの中高年層ですが、最近は「40歳以上」や「35歳以上」というように対象年齢が低い企業が多くなってきている印象です。

厚生労働省によると、新型コロナウイルスの感染拡大に関連した解雇や雇い止めの人数(見込みを含む)は11/6時点で初めて7万人を超えました。特に非正規労働者の雇用環境が厳しく、3万3千人超を非正規労働者が占めています。業種別では製造業が最多で、飲食業、小売業、宿泊業の順に続きます。今後の感染拡大で景気が一段と冷え込めば、リストラに踏み切る企業がさらに増える可能性があります。

内閣府が2020年度 年次経済財政報告で指摘しているように、感染拡大防止によって需要は抑制され、元に戻らないことは明らかです。ネット配信やデジタル決済、テレワーク等のデジタル技術を活用するなど「新たな日常」を構築し、実践することで需要を生み出し、経済を拡大していくことが必要です。「新たな日常」の推進に向けて、他の先進国に比べて見劣りしているIT投資を更に加速させる必要があります。省力化を意図したIT 投資は、取組割合が高い大企業製造業でも現場への取組(ロボットによるサポート・自動化等)の割合は5 割未満、大企業製造業・非製造業でもバックオフィスへの取組(WEB・IT関連のソフトやシステムの導入、RPA 等)の割合は6割超という状況で、中小企業を含めて取り組みの余地は多く残されています。ただ、投資対効果について、現状では既存の設備や労働力の置き換わりにとどまり、付加価値生産性の向上には明確に結びついていないようです。

2020年度 年次経済財政報告は、IT人材の不足も指摘しています。デジタルイノベーションを担うIT人材の状況について、情報処理推進機構が行っているアンケート調査では、IT人材の不足感は8割強にまで達しています。とりわけ、デジタルイノベーションに必要な特定の技術を持つ人材について、IoTやビッグデータ、クラウド活用に関するスキルを持つ「デジタル人材」は、3割強しか確保できておらず、AIの技術を持つ「AI人材」は1割強しか確保できていない状況です。現状、IT企業の事業は従来型のシステム・ソフトウェア開発が中心ですが、今後、IoTやビッグデータ、AI 等を利活用したデジタルイノベーションにシフトしていくなかで、こうした高度な技術を持つ人材の育成・獲得は国際競争力を保つ意味でも重要です。 内閣府は、2020年に先端IT人材(*)が約5万人不足し、一般IT人材が約30万人不足しており、2030年には60万人不足すると試算しています。
(*)先端IT人材:ビッグデータ、IoT、AI等を担う人材

ここまで2020年度 年次経済財政報告の内容を中心に見てきましたが、労働市場は、経営戦略や感染症リスクの影響、IT投資による省力化等によって、ある領域では労働力が需要に対して供給過剰になっています。しかし、別領域とりわけIT領域では需要に対して供給が追い付かない状況です。領域毎の需給の関係は業種という区分で顕著ですが、一企業内の職務区分でも起こりえることです。そしてこの労働市場の傾向は10年以上続くのではないかと思います。

生産年齢人口が減少し高齢化が進む社会構造のなかで、全領域における労働力の不足が進展するのは間違いないので、需要と供給という観点では、過剰な領域から不足している領域に労働力を移動してできるだけバランスをとる必要があります。そのような認識を踏まえて、自分のキャリア形成を考えながら、これからのリカレント教育をどう受けていくのかについて、自分に合ったプランを作ることがエンジニアの課題だと思います。

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