これから企業が生き残る条件
「どんな企業が生き残るのか」ということについて話をさせていただきます。
コース受講者から、様々な業界で10年~20年スパンで技術が大きく変わっていく状況で、どんな企業が生き残るのでしょうか、という質問がありました。 わたしは、以下の3つが企業が生き残る条件だと考えています。
・顧客が求める商品・サービスを提供する
・新しい機能提供を顧客価値とする
・持続的事業だけに資源を優先配分しない
ひとことで言うと、持続的技術に支えられた事業だけに頼らず、変化に順応しながら破壊的技術で一番手を獲っていくという希少性の獲得の戦略が、企業に求められていると考えます。
「3つの条件など、ごくあたりまえのことだ」と皆さん言われます。では、なぜ企業の資源を、成熟期や衰退期に入っている既存の持続的事業だけに優先配分する企業が相変わらず多いのでしょうか。
企業活動を賄うために必要とされる何億円~何百億円規模の利益を生む事業に資源を優先配分する判断は容易ですが、当初は数百万円~数千万円規模の利益しか見込めない新しい事業に、資金や人材という貴重な資源を投資する決断のハードルがとても高いことが阻害の主要因だと思います。 投資家から四半期ごとの利益を常に監視されている企業の経営者が、新しい顧客価値を提供するために、数年間目をつぶって我慢をしてほしいと、納得感のある説明をして投資家を説得する覚悟がないと実現しません。多くの企業の経営者は、収益にかかわるリスクを避ける傾向にあるため、前述した3つの条件を満たす企業が少ないのだと思います。
一例として、アパレル業界で考えてみます。
基礎体力が弱体化していたなかで、コロナ禍の需要消滅がトリガーとなり、アパレル業界には倒産や事業縮小の嵐が吹き荒れています。伝統的ブランドイメージ、トレンドや色・柄・形状などを重視し、過去の実績や好み・感性に頼った価値を服という商品にして顧客に提供してきた企業は、軒並み厳しい経営状況です。一方で、ユニクロのように極暖や速乾という機能を服という商品に仕立て、顧客価値として提供した企業は利益を確保しています。
今アパレル業界に必要なのは、色・柄・形状などをデザインするデザイナーではなく、破壊的技術を確立、活用して、自社生産して低コストで販売する服を企画・設計・生産するエンジニアなのだと思います。 流行などより、技術に裏打ちされた機能がもたらす効用のほうが、顧客の購買意欲を確実につかみます。
では、アパレル業界が目指すべき新たな機能とはどんなものが考えられるのでしょうか。
スマートウオッチなどに代表されるウェアラブルデバイス市場は成長期にあり、世界の出荷台数はスマートフォンの出荷台数の1/4に達すると推定されます。歩数、心拍数、血圧、体温などを測定できるもの、動画撮影できるもの、画像投影できるものなど多彩な機能を有しており、スマートフォンとも連携できます。服もウェアラブルデバイスのひとつという発想をすれば、機能領域の拡大と破壊的技術の探索の必要性はますます高まると期待されますし、企業の資源を、市場をイノベーションできる可能性のある分野に配分する判断をし、投資家を説得することもしやすいのではないかと思います。
顧客が求める商品は、心拍数、血圧、体温測定ができる服なのかもしれません。服には、身を包む衣料品としての機能だけではなく、ICT (情報通信技術)を活用して健康状態を常時把握できる医療品としての機能が追加されるのかもしれません。そこに市場イノベーションの可能性を見出したのなら、持続的に利益をもらたしている事業にだけでなく、スタートの収益の小ささには目をつむり、資源をこの新たな領域に積極的に投資する決断をするべきです。
服を例に考えてみましたが、様々な業界に置き換えられるのではないかと思います。業界を問わず、冒頭の3つの条件を満たす経営を実践できる企業が生き残っていくのだと思います。
但し、実践にあたっては、戦略策定や企画提案などができるスキルを有し、実務経験のある優秀な人材が企業内部にいることが前提条件なのですが、最近ここが怪しくなっているのが気がかりです。