自らのキャリア形成についてロジカルに語りたくない想い
20代の受講者とキャリア形成についてのインタラクティブ・ワークを行ったときの話をさせていただきます。
ワークのテーマは「5年後、10年後のキャリアプランを考える」というものです。
事前資料として、10年~20年で技術は大きく変わるという具体的データを受講者にお見せしています。
頭の中を整理しやすいように、「今の仕事」、「収入や上司などの衛生要因と責任ややりがいなどの動機づけ要因について、すべて足りているか? or ひとつでも足りないな項目があるか(不足かよくわからない)?」、「将来やいたいことをできるように行動する? or 将来やりたくないことをしなくてもよいように行動する? or そのまま放置する?」、「今やるべきことは、市場価値を確認したり高める実務経験をつむこと? or 今やるべきことは、いろいろ経験して自分に合ているものを探すこと? or 今やるべきことはない?」、「5年後、10年後の衛生要因と動機づけ要因に対する不足はどうなっていると予想するか?」、という箱を作り考えてもらいました。
ディスカッションのなかででてきた意見には、「そんなにロジカルに計算高くキャリアを頭の中に描き、考えながら目指す方向を決めて生きていくことはしないと思います」や、「衛生要因と動機づけ要因に対して、少しも不満がないことなど現実にはありえないと思います」や、「自分にとっての優先順位が決まっていないので、どこに資源を優先配分するべきか判断できないです」というものがありました。
ロジカルに考えられるようにフローのようなものを作ってしまうと、受講者は、自らのキャリアに関してロジカルで語りたくない想い、つまり自分の人生は唯一無二であり、創造的であるべきだという思いにギャップが生じ、反感をもって受け止めてしまうようです。
キャリア形成について、10年後位を目安に自分の意志でキャリア形成できるように準備し続けることは必要ですよ、というメッセージを理解していただきたかったのですが、将来やりたいことをできるようにしたり、将来やりたくないことをしなくてもよいようにするという目標は共通していても、それを達成するための手段として、自分のポジションを把握して将来のために準備をするというようにロジカルな行動をとる、あるいは、いろんな経験をして探っていくという試行錯誤的な行動をとる、の二つの選択肢には収まらず、とりあえずそのまま放置して何もしない、を選択する人は存在するというのが結論のようです。
企業から今はそれなりに優遇されていて決定的な不満がない場合、10年~20年で技術は大きく変わり今の事業が斜陽産業になるかもしれないことは理解しても、たとえば社内の専門職などで自分の居場所が作れることを想定するような人は、とりあえず今はそのまま放置して何もしない、という行動を選択するというのが現実なのかもしれません。
「今」じゃなくてもよいでしょ!という感じでしょうか。
もちろん、人やモノとの出会いや様々な偶然の出来事に左右されて人生は形作られていくことは間違いないので、今は何もしないという選択があってもおかしくはありません。あるいは、こういう人になりたいと思える人物と幸運にも巡り会え、同じようになりたいと思って努力したり、その人を手本に真似をするという生き方も素晴らしいと思います。
10年~20年で技術は大きく変わり、企業の事業転換もあるので、10年先輩がやっている仕事をベースに自分のキャリアプランを考えることはあまり意味がありませんが、先輩を参考にする考え方として、10年先輩のキャリアパスは参考になると思います。いま身動きできない先輩と同じキャリアパスを辿ると同じ状況に陥りそうですし、外に出ても評価を落とさず生きていける人のキャリアパスは真似してよいところが多いと思います。
とりあえず今はそのまま放置して何もしない、という行動を選択するのは駄目だとは言いませんが、たとえば鉄鋼業界のように、既存事業が衰退期から斜陽産業となり、収益が悪化した経営状態のなかで事業縮小、事業売却、事業終了などの戦略がとられるようになってしまうと、身動きができなくなってしまうので注意が必要です。ロジカルに行動するのか、試行錯誤的に行動するのかは自分のスタイルや感性に合ったほうを選択すればよいと思いますが、今から10年後位を目安に自分の意志でキャリア形成できるように準備し続けることをお薦めします。